「冗談はもういいから、梨子ちゃんを呼んできてよ」

 渚ちゃんは家のなかに入っていった。
 やっぱり、梨子ちゃんは部屋で寝ているんだ。夏休みだしね。わたしも寝坊したわけだし。

 ドアの開閉音。
 一人の人物の姿がこちらに近づいてくる。渚ちゃんみたいだった。

「わたし、病院から慌てて戻ってきたんです。これを遥さんに渡そうと思って」

 渚ちゃんがわたしの手を取って、手のひらになにかを押し付けた。薄くて、四角い形をしたもの。

「お姉ちゃんが亡くなる数日前、これをわたしに渡して来たんです。もしも自分になにかあった場合には、この手紙を遥さんに渡してほしいって。病院で突然このことを思い出して」

「……手紙」

「あのとき、もっと疑問に思うべきだったと後悔しています。ずっとお姉ちゃんの様子がおかしいのには気づいていましたから」

 紙の感触が手に伝わっている。手紙、封筒。

「でも、まさか自殺だなんて。そんなに長い期間一緒に暮らしていたわけではないですけど、それでも間違いなく家族のひとりで、お姉ちゃんとして接してくれたことも忘れられないです」

「……」

「ごめんなさい、一人でしゃべって。手紙の中身は見ていません。でも不思議ですよね。目の見えない遥さんに手紙を残すだなんて」

 それじゃあ、わたしは病院に戻ります、そういって渚ちゃんはこの場を立ち去った。