「自殺だったらしいわ。昨日の夜に自宅で手首を切ったらしいの。朝に両親が見つけたときは、すでに手遅れだったみたいで」

 自殺って、まるで梨子ちゃんが死んだみたいなことをいってる。冗談でもよくないよ。

「そういえばさっき、どこからかサイレンが響いてたけど、あれだったのね」

「火事でもあったの?」

「遥ちゃんがすぐに受け入れられないのは当然よね。親友が亡くなったなんて信じられないのが普通だもの。わたしも動揺してるの。あの明るく挨拶をしてくれた梨子ちゃんが自分で死を選ぶだなんて」

「おばさん、悪い夢でもみたの? 現実と夢を一緒にしちゃダメだよ」

 おばさんがこちらに腕を伸ばしたことがわかった。肩に手が置かれる。

「向こうの家族が落ち着いたら病院に行きましょう。最後のお別れをしてあげないとね」

 おばさんはなにか勘違いをしている。
 こうなったら、梨子ちゃん本人を連れてくるしかない。

 わたしはスウェット姿のまま、家を出た。駆け足で梨子ちゃんの家へと向かった。
 家を見上げてから、インターホンを押す。誰も出てこない。声も返ってこない。わたしはボタンを何度も押した。何度も、何度も。

「遥さん?」

 わたしへと向けられた声。家のなかからじゃない。道路からだ。そちらへと顔を向ける。

「お姉ちゃんのことで来たんですか?」

 お姉ちゃん。梨子ちゃんの妹である渚ちゃんだ。わたしとも何度か話したことがある。

「よかった、渚ちゃん。梨子ちゃんに会いに来たんだけど、誰も出ないの。もしかして梨子ちゃん、寝てるのかな?」

「電話で聞いてないんですか、お姉ちゃんのこと」

「え?」

「お姉ちゃん、自殺をしたんですよ」

 渚ちゃんまで。
 みんなでわたしを騙そうとしてるの?

 そもそも、もしそれが事実なら、渚ちゃんはこんなところにはいないはずだよ。病院にいなくちゃおかしいよね。