私たちのコンプレックス

 朝に目覚めたとき、なにかいつもとは違うなという感じがした。

 具体的にどう表現したらいいのかわからないけど、不思議な違和感があった。

 胸の辺りに変なモヤモヤがあった。悪い夢でも見たのかな。
 ベッドから抜け出して、窓を開けてみる。日差しを浴びても気持ちは晴れなかった。

 部屋を出て、洗面所に入る。
 繰り返し顔を洗って、鏡に顔を向ける。

 いまの自分はどんな表情をしているんだろう?きっとひどい顔をしているに違いない。

 洗面所を出ると、おばさんがキッチンのほうから出てくる。
 この家の構造は完全に把握していて、おじさんとおばさんの違いも判別できるようになっていた。

「あら、遥ちゃん、今日は遅かったのね」

 おばさんに時間を尋ねると、かなり寝過ごしたことがわかった。

「夏休みだから起こさなかったんだけど、用事とかないのよね」

「うん」

「朝御飯はどうする? いまから食べる?」

 おばさんがそう聞いた直後、自宅の電話の呼び出し音がなった。

「あ、ちょっと待ってね」

 おばさんが駆け足でリビングへと向かう。起きたばかりだからそんなにお腹はすいていない。
 喉は渇いていたので、わたしは飲み物を取りにキッチンに向かった。

 冷蔵庫を開けようとしたとき、おばさんが慌てた様子でキッチンに入ってきた。

「は、遥ちゃん。落ち着いて聞いてね。いまさっき、病院から電話があったんだけど」

 病院からの電話?

「芹澤さんのところの梨子ちゃん、亡くなったらしいわ」

 おばさん、何をいってるんだろう?
 リコチャンガナクナッタ。
 なにかをなくした? 

 梨子ちゃんの名字は確かに芹澤だけれど。
 これは再婚して新しくなった名前。
 いまだにわたしはこの名字にはしっくりこない。
 前のほうがずっと長く呼んでいたし。