梨子ちゃんは知っているはずだよね。
 わたしがあの大きな事故に巻き込まれたということ。

 じゃあ、全部話してもいいのかな。

 でも、橘先輩のプライバシーもある。
 わたしのことを恨んでるなんていったら、梨子ちゃんが怒るかもしれない。

「もう、別れたよ」

「え、本当?」

「うん。いろいろあったから」

「どっちが振ったの?」

「先輩、かな。どうしてもわかりあえないところがあったというか、わたしが悪かったんだけどね」

「そんなにすぐ振られるかな?だって向こうから告白してきたんだよね」

「わたしが未熟だったんだよ。恋愛経験なんて全然ないから、先輩を困らせてしまったんだと思う」

「遥はそれでいいと思ってるの?」

「少しでも夢を見させてくれた先輩には感謝してるんだ。不満なんてなにもないよ」

 嘘をつくのはやっぱり胸が痛い。とくに梨子ちゃん相手だと。

「そっか。遥がそれでいいなら、わたしがあれこれいう必要もないのかな。またいい人が現れるだろうしね、遥なら」

「梨子ちゃんのほうこそ。たぶん、クラスとかでもすごいモテてるんだよね」

「……」

「梨子ちゃん?」

 梨子ちゃんの沈黙はやけに長かった。
 ここにわたししかいないんじゃないかというくらいに静かになった。

「あ、なんでもないよ。ごめん、ちょっと考え事をしてて」

「体調とか悪かったりする?」

 ここまで話した印象として、梨子ちゃんはあまり元気がないように思えた。

「……もし」

「ん?なに?」

「ううん、なんでもない」

 その声はどこか、遠くの場所から聞こえたような、そんな気がした。