わたしにはあまり友達がいないので、夏休みでも外へ出かけることはほとんどなかった。

 コンプレックスプランはまだ続いていたので、家でじっとしていることがいつもより多かった。
 暑いのは苦手だからクーラーの効いた部屋でゴロゴロしてるのは悪くはなかった。

 そんなわたしがこの日珍しく外出したのは、梨子ちゃんに誘われたから。
 お昼過ぎに梨子ちゃんが家に突然来て、ちょっと出かけようといわれた。

 わたしはすぐにうんと返事をした。用事なんてものは一切なかったし、久しぶりに梨子ちゃんと会えたことが嬉しかった。

 玄関で梨子ちゃんと対面して声を聞いたとき、わたしのなかにあった変な不安は一気に吹き飛んだ。
 梨子ちゃんの顔や思い出がぱっとよみがえって、わたしは安堵した。

 わたしたちが向かったのは見晴らしの丘だった。街の近くにある山の中腹にある展望公園のこと。
 山の登山ルートの入り口近くにあって、ここから街を見渡すことができる。

 わたしたちは展望広場から街を見下ろしていた。目が見えなくても、手で触れた柵の感触と風の流れからわたしでも実感できる。

「前に話したのは、いつのことだったかな。橘先輩の告白のときかな?」

「そうだね。一ヶ月以上前のことだよね」

 こんな普通の会話ができることに、わたしは幸せを感じていた。
 梨子ちゃんとの関係は完全に切れたわけではないということを確認してほっとしていた部分もある。

「いろいろと考えることがあったんだ。学校なんか勝手にサボったりして、平日にここで過ごしたこともあったくらいなの」

 梨子ちゃんのお母さんがいってたこと、あれ、本当だったんだ。

 でもそれじゃあ、わたしとの関係は前とそんなに変わってなかったってこと?
 梨子ちゃんには悩みがあって、一人でいたかったってことだよね。新しいお父さんとの関係かな。