あの人というのは、梨子ちゃんのお母さんの再婚相手のこと。

 きっと新しいお父さんとはまだ完全には打ち解けていなくて、梨子ちゃんの本音を聞くことができないでいるのだと思う。

「いじめとかを心配してるんだけど、遥ちゃんはなにも聞いてない?」

「わたしには、わかりません」

 そう、わたしにはわからない。
 コンプレックスプランが始まってからは、梨子ちゃんのことを考えること自体が少なくなっていた。

 とても不安だった。
 わたしがこうなっているということは、梨子ちゃんも同じかもしれない。

 梨子ちゃんもわたしのことを半分くらい忘れてしまっていて、だから一切声をかけてこないのかもしれない。

「それにしても、どういうことなのかしら?」

 梨子ちゃんのお母さんがポツリと呟くようにいった。

「だって、ねぇ、おかしいんじゃないかしら?」

「なにがですか?」

「あなた、本当に梨子の友達なの?」

「え?」

「うちの」

 そこまで言ったとき、家のなかからなにかの音が聞こえた。自宅の電話の呼び出し音みたいだった。

「あ、ごめんなさいね。今日はこれで」

 梨子ちゃんのお母さんが家へと戻る。

 わたしは玄関先にひとり取り残されて、言い様のない不気味さだけが広がっていった。