ピンときてないみたい。いつも遥ちゃん、とわたしのことを呼んでくれてるのに。

「ああ、遥ちゃんね。いやだ、どうしたのかしら。ちょっと、ぼーっとしちゃって。もうボケてるのかしらね」

 明るく笑う声が聞こえる。
 わたしに気づくのに、どうしてこんなに時間がかかったんだろう。

「それで、梨子に用事なの?まだ帰ってないなら、わたしから伝えておきましょうか?」

「とくに用事があったわけでさはないんですけど、ちょっと話をしたくて」

「もしかしたら、学校を早退して、寝ているのかもしれないわね。ちょっと待っていてちょうだい。わたしが確認してくるから」

 寝ている?
 この時間に?
 いまは放課後の時間帯なんだけど。まだ具合でも悪いのかな。

 家のなかに入っていった梨子ちゃんのお母さんがしばらくして戻ってきた。
 いないわね、と梨子ちゃんのお母さんがいった。

「まだ帰ってきてないみたいね。また来てちょうだい」

「梨子ちゃんは病気なんですか?」

 大きい病気を患っているのなら、治るのにも時間がかかるとは思う。通学しながら治療しているのかもしれない。

「ずっと、気分が悪いといってるの。本人にも理由がわからないみたいなんだけど」

「病院には行ってないんですか?」

「本人が行きたがらないのよ。もしかしたら、仮病なのかもしれないと疑ってはいるんだけど」

「仮病?」

「少し前に、クラスの担任から電話で連絡があったのよ。梨子が学校に来てないって。その日の朝は普通に登校していたのだけれど」

「ずる休み、ということですか」

 梨子ちゃんは真面目な子だったはず。そういう知識をわたしは持っている。

「どうかしら。本人にもなかなか聞けないのよ。あの人もまだ気を使ってるから、いまはそっとしておこうって言ってるから」