「言い訳?」

「うん。遥ちゃんは現実の男性は怖いとか思ってるんじゃないのかなって。マンガやゲームのキャラクターは決まったセリフを言うけど、本物の男性はどんなことを言うのかわからない。場合によっては遥ちゃんを傷つけることも言うかもしれない。そういうことが不安だったりするんじゃないの?」

そうなのかな。梨子ちゃんの言うことは、全部間違っているようにも思えない。

わたしはこれまでにハッキリとしたいじめを受けたような経験はしてこなかった。

でも、同じクラスの男子がわたしのことを裏でどんなふうに言ってるのかはなんとなく聞いたことがある。

オタク女とか、キモいとか。わたしはゲームとマンガが好きで、中学生のときはマンガ研究部にいたから、そんな呼ばれ方をしていたんだと思う。

だから、わたしのなかには男性に対する恐怖心が根付いているのかもしれない。

一度好きになった相手にそんなことを言われたらもう、立ち直ることはできないから、はじめから心にブレーキをかけているのかもしれない。

「もしかしたら、正解かもしれない」

「勇気を持って一歩を踏み出すことも重要だよ。覚悟を決めないと」

勇気。橘先輩とお付き合いをすれば、わたしも変わるってことなのかな? そのときに初めて自分の心に向き合うことができる?

「付き合ったほうがいいのかな?」

「それを決めるのは遥ちゃん自身。わたしは思い切って付き合ったほうがいいとは思う。どんな結末になろうと、それはそれでいい経験になると思うから」

経験のためだけなんて、そんな気軽に恋人を作ってもいいのかな。