久しぶりに梨子ちゃんに会いたくなった。

 もうしばらく会っていない。最後の会話は橘先輩に告白をされた直後だったように思う。

 わたしはすぐにコンプレックスプランを始めたので、なかなか交わる機会はなかった。

 会いたい、というのは実際のところ、少し違うのかもしれない。

 わたしは焦っている。梨子ちゃんという存在が自分のなかで薄れていることに。

 思い出すべてがふわふわとした形のないものに変化していて、とらえどころがなくなっている。

 わたしの中にある梨子ちゃんという概念は辞書に書かれた説明文みたいになっていて、あなたとこの人の関係性はこんな感じですよと別の誰かがわざわざ説明してくれているようだった。

 関係性がすべて絶たれたわけではないので、会えばこれまでと変わらない会話を交わすことができるはず。
 実際、高木くんとも不便なく話すことができたし。

 だから、夏休みがあと数日に迫ったこの日、わたしは梨子ちゃんの家を訪れることにした。

 放課後のこと。
 学校では会わなかった。

 どのクラスに梨子ちゃんがいるのかすら、わたしは覚えていなかった。

 幸い梨子ちゃんの自宅らしき場所は頭には入っていた。

 わたしの家からは少し離れてはいるけれど、無事にたどり着くことができた。

わたしはとりあえずインターホンを押して、反応を待った。誰からの応答もなかった。

「どちら様?」

 道路側から聞こえた声のほうに顔を向ける。
 そこに一人の誰かが立っていることがわかる。
 この声はそう、梨子ちゃんのお母さんだ。

「あの、梨子ちゃんに会いに来たんですけど、まだ帰ってきてないんですか?」

「ああ、梨子のクラスメートの人なのね」

 なんだか対応がよそよそしかった。
 わたしと梨子ちゃんのお母さんは何度も会ったことがある。わたしの名前も顔も知っているはず。

「わたし、篠崎遥ですけど」

「篠崎、遥さん?」

 梨子ちゃんのお母さんがわたしの名前を繰り返す。