「だろうな。じゃないと遥のようにまっすぐな子には育たないもんな」

 来栖先輩はどうしてわたしなんかに付き合ってくれてるんだろう。そんな疑問が頭からは離れない。

 同情とか?
 でも、わたしと橘先輩との関係はなにもいってないから、そういうことはないはずだけれど。

 わたしのほうにはハッキリとした理由がある。橘先輩のことを忘れるため。
 こうして来栖先輩と一緒にいると、過去に悩まされずにすむから。

「あの、わたしなんかといるよりも、他の女子のほうがいいんじゃないですか。わざわざ一年の教室にまで来るなんて面倒ですよね」

 わたしに近づくとしたら、きっと他になにか目的があるんだろうなとは思う。

「本当のことをいってください。なにかわたしに聞きたいことあるんじゃないですか?」

 別の目的があったとしても、わたしは別に構わないと思う。

 少しでも落ち込んだ気分を回復させてくれるのなら、それで充分。

「……おれの態度、どこかおかしかった?」

「いえ。わたしみたいな地味な女子にこうして親切にしてくれるので、そう推測しただけです」

「自分に自信がないんだ」

「周りの反応でだいたいわかります。正直にいってください。わたしはショックなんか受けたりしませんから」

 無理矢理聞くことでもないのかなとは思う。

 ただわたしは怖がっているのかもしれない。
 橘先輩のように後で思惑を知ってショックを受けることに。

 それがもし橘先輩と同じ理由だったら?二人続けてそんなことあり得ないとは思うけど、もしもということもあるし。

 来栖先輩の沈黙。
 そのまま時間がゆっくりと流れた。

「そうか、遥も結構鋭いんだな」

「教えてくれますか?」

「じゃあ、ひとつ頼みを聞いてくれるかな?」

「なんですか?」

「おれと、デートしてくれないかな?」