「そうじゃない。わたしの好みのタイプであったことは間違いないの。ただ、すでにそのとき、わたしの一部を形作っているのが慎だったということに気づかなかっただけ。そして、気づかないまま、先輩のことを愛そうとしてしまった。だから徐々にすれ違いが生じてしまったの」

「……」

「誰かと付き合うってことは、その人をもっと知りたいっていうこと。その過程のどこかで自分を見つめ直すときも必ずやってくる。わたしはそれを乗り越えることができなかった。相手に依存しすぎていて、本当の自分というものを見失っていたの。きっとこういうことは女性なら誰にでもあると思う。だって誰かを好きになれば、すべてを預けて相手を試してみたいと考えるのが女だもんね」

 わたしにはそこまでの経験はない。これからもないと思う。

「慎があんたに抱いている感情は、きっとわたしを構成する要素の一つでもあると思う。わたしはそれを知りたい。知らないといけないと思う。その結果、どうなるかはわからない。わたしはただ、もう立ち止まっていることはできないの。どんな事情があるにしても、慎が誰かを好きだと言った以上、わたしもその相手を放っておくわけにはいかない」

「だから、わたしに親切にしてくれるということですか」

「もっと単純かもね。慎が幸せになってくれればいいのかも。そのためにはあんたという存在が必要なんじゃないかって、なんとなく感じてるのかもしれない」

 どちらかといえば、わたしは不幸の元凶。近くにいてはいけない存在。

 コンプレックスプランが続いているうちはまだ、平気かもしれない。
 橘先輩が横を通りすぎたとしてもわたしは気づかないから。
 でも目が見えるようになった後は、耐えられなくなるかもしれない。
 わたしの初恋はとっくに終わっている。