「ヒントもなにも、橘先輩はやけどのきっかけを作ったことを怒ってるんです。両親には確かに落ち度はなかったかもしれませんけど、橘先輩がどう受け止めるかは別ですから」

「やっぱりしっくりこないんだよねぇ。慎はそんな人間じゃないと思うけどな。例えばお金を払えとかもいわれてないんでしょ」

「お金で解決できる問題ではないですから」

 もしお金でどうにかなるのなら、わたしは必死に働くつもりだけど、いまもやけどの跡が残っているということは、一生それと付き合っていかないといけないということのはず。

「だからこそ心が重要なんじゃないの。慎があんたのことを憎んでいるとしたら、それを解消できるのもあんたしかいない。むしろ、ここからが本番なんじゃないかと思うけど」

「橘先輩とは、もう二度と会うことはないと思います」

「まだ卒業まで時間があるのに?」

「わたしがいないほうが倉田先輩にとってはチャンスなんじゃないですか?」

「あんたは誤解してるよ。わたしは慎と付き合いたいんじゃない。慎のことをもっと知りたいの。付き合うとしたら、あくまでもその結果なわけよ。わかる?」

「……わかりません」

「そう。いずれあんたにもわかるよ。誰かと付き合い、デートをして、キスをして、愛し合って、それでなにを得たんだろうって疑問に思うときが」

 倉田先輩は交際経験があるのかな? わたしは勝手に橘先輩一筋だと思い込んでいたけど、いまの話を聞く限りだとそうではないような感じも受ける。

「それは実体験なんですか?」

「ええ。わたしはかつてもう卒業した先輩と付き合ってたの。どうせ慎とはそういう関係にはなれないと思っていたから、割り切るためにね。でも、ダメだった。彼と一緒にいても、魂は常に慎のほうを向いていたの」

「その先輩のこと、そんなに好きじゃなかったんですね」