わたしの言葉を聞いた瞬間、梨子ちゃんは足を止めた。顔を下げて、地面のほうを見つめている。

「なにか落としたの?」

わたしがそう聞くと、

「あ、ううん、なんでもない」

梨子ちゃんは頭を振って、歩くのを再開した。

「とにかく、おめでとう。これで遥ちゃんも彼氏持ちだよね」

「だから、まだ答えてないんだよ」

「悩んでるってことは、付き合いたい気持ちはあるってことだよね。なら答えはひとつしかないよ。嫌いだったらすぐに答えは出るはずだから」

そうかもしれない。ただ、わたしの心の正確な部分は自分でもわからない。
橘先輩のことが好きなのか、それとも単純に誰かと付き合いたいのか。

「正直、人を好きになるってどういうことなのか、いまだにわからないんだよね」

現実での彼氏彼女。
デートをしたり、学校で一緒にご飯を食べたり、キスをしたり……。だめだ。全部二次元のキャラクターしか出てこない。

「もしかして、二次元のキャラクターのほうが好きだとか言わないよね」

わたしの心を読んだかのように、梨子ちゃんが言う。

「そ、それはさすがにないよ」

わたしはゲームもキャラクターも好きだけど、現実の人と比べることはしない。

デートの想像がすべて二次元なのはそういう経験がないから他に思い付く人がいないからであって、橘先輩の告白を断る理由にはならない。

「別にそういうのが悪いと言ってるわけじゃないんだよ。ただ、遥ちゃんが言い訳に使ってるんじゃないかって心配しただけだから」