高校に入ってから、わたしはいつも一人ぼっちだから。
 同姓の友達でもいれば、橘先輩のことだっていろいろと相談できたはず。

「え、もしかしていないの?」

 はい、そう言いかけた瞬間、頭に雷が落ちたみたいな衝撃が走って誰かの名前が一気に浮かんだ。

 それは、そう、梨子ちゃんだった。

「……いえ、梨子ちゃんという同級生はいるんですけど」

 忘れていた? 梨子ちゃんのことを?

 いまでもなにか、頭がぼんやりとしている感じがする。
 わたしの胸には違和感が渦巻いている。梨子ちゃんという人は知っているし、友達であることもわかる。
 ただ、はっきりと顔を思い出すことは難しい。

「話しづらい?」

「……はい」

 倉田先輩にはこのこと伝えるわけにはいかない。

 自分でもちゃんと整理できていないんだから。
 もしかしたら、橘先輩のあれこれで、頭がおかしくなっているのかもしれないし。

「友達だからこそ言えないってこともあるか」

「……」

「ところでさ、いまの話を聞く限り、わたしなんかは運命だなと感じちゃうけどな。不謹慎かもしれないけど、ああいう大きな事故を生き延びた二人だからこそ、お互いに惹かれあうということもあるんじゃないかな」

「倉田先輩は事故を経験してないからそういうことがいえるんです」

「あんたも記憶はないんでしょ。あの事故の瞬間は覚えていない」

「……はい」

 そう指摘されてしまうと、わたしからはなにもいえなくなる。
 事故のことを全然覚えていないということは、橘先輩の本当の苦しみを理解することもできないということだから。

「そこなのかな。慎がこだわってるのって。なくした記憶になんかヒントがあるんじゃないの?」