「あ、こっちこっち」

 来栖先輩と別れて校舎を出ると、倉田先輩に呼び止められた。わたしのことを待っていてくれたらしかった。

「話、どうだった? 上手くいった?」

「……」

「さっきさ、慎のやつが学校から出てきたんだけど、なんか妙に複雑な顔をしてたんだよね。わたしが声をかけてもほとんど無視されてさ、なにがあったのかわかんないから、あんたのことを待ってたんだけど」

 倉田先輩にはおおまかなことは伝えていた。橘先輩のことを理解するために、わたしの過去を話すということを。

 屋上でのやりとりも伝えるべきかもしれない。
 自分一人では受け止めきれないし、橘先輩の過去を知っているであろう倉田先輩なら、ありのままに言っても大丈夫かもしれない。

「聞いてもらいたいことがあるんですけど」

「なに?あんたもだいふ深刻そうな顔をしてるけど。ま、ここまで来たんなら、最後まで付き合ってあげるわよ」

 わたしはさきほどの会話を、包み隠さずに倉田先輩へと伝えた。

「……復讐?」

「そういってました」

「え、付き合うことが復讐って、いったいどういうこと?」

「わたしを幸せの絶頂から叩き落とすことで、これまでの怒りを発散するつもりだったんです」

「いやいや、それはおかしいよ。あいつはそういうやつじゃない。なんていうか、もっと単純な男だよ。長い付き合いだからわたしにはわかる。少なくとも、そんな陰湿なことをするやつじゃないってことくらいは」

「でも……」

「あんたの言うことが嘘だとは思わないよ。その表情を見ればわかる。ただ、慎の言葉を額面通りには受け止められないよね。そんなことを言ってたとしても、わたしにはそれが本音だとはとても思えない。なにかさ、特別な理由があったんじゃないかな?」

「特別な理由ってなんですか?」

「それはわかんないけど、憎しみを持った相手に、例え罠だったとしても告白なんてするかなって疑問にも思うのよ。そういう相手って本来は顔も見たくないわけでしょ。でも、あいつはデートまでしてるわけで」