「その名前と同じ女子が新入生として入学してきたと知ったときは、ぼくは興奮したよ。これで復讐が果たせるとね」

 復讐。その言葉はわたしの胸に突き刺さるように響いた。

「きみに近づいた理由がこれなんだよ。ぼくは長年、きみを許すことができなかった。あんな事故を起こした子供がいまもなんの不自由もなく生活していることがどうしても納得できなかった」

 わたしの頭は真っ白で、本当の意味での橘先輩の言葉が浸透していくのには時間がかかった。

「だから、ぼくはきみに告白をした。好きだといって近づいて、ある程度関係が深まったときに真実を伝えて、きみを絶望の底に叩き落とすためにね」

 だめだ。声が出ない。

「もちろん、わかっているよ。きみの両親も被害者だってことは。後ろから追突されたことで、ハンドル操作を誤ってしまった。本来であれば同情されるべきだということも。でも、ぼくの立場としてはそれで納得できるわけじゃない。ぼくはあの事故のせいで長年、苦しみ続けたんだ」

 苦しみ続けた?
 それ、どういうことだろう。
 突然、わたしの頭は冷静に回り始めた。

 わたしの頭にはひとつの疑問が浮かび上がっている。
 どうして橘先輩のお母さんはわたしのところにやって来たの、ということ。

 わたしはてっきり、子供を事故で亡くした母親の怒りだと思っていた。

 でも、橘先輩はこうして生きている。
 事故に遭ったとしても子供が無事だったのなら、それで納得して、探偵を雇うなんてことはしないはず。

 橘先輩だってそう。
 大きな事故なんだから、その記憶で苦しんでいてもおかしくはない。

 でも、復讐を考えるほど? 命が助かってもわたしを追い詰めないと気が済まないの?