「……きみは過去を思い出したってこと?」

「まだ自分の頭のなかにはなにもありません。なので、おじさんとおばさんに話を聞きました。当時のことを聞かせてもらったんです」

「両親が亡くなったときのこと?」

「はい。わたしの両親は事故で死にました」

 わたしは橘先輩に伝えた。おじさんとおばさんから聞いた話をそのままに。

 橘先輩は質問を挟まずに、黙って聞いていた。わたしが話終えても、無言のままだった。

「……これがわたしの過去です」

「……」

「これで橘先輩の過去も教えてほしいっていうのは、図々しいお願いだとは思っています。わたしが言いたいのはただ、少しでもこれで橘先輩との距離が近くなればいいなということで、無理に橘先輩の過去を聞き出すつもりはないんです」

 言い終わると同時に、二人だけの屋上に強い風が吹き付ける。

 わたしは髪の乱れを整え、再び橘先輩のほうに顔を向けた。

「……あれは、大きな事故だったよね」

「橘先輩はこの事故のこと、覚えているんですか?」

「もちろん。バス会社の管理体制はひどいものだった。従業員の管理を徹底せず、法律を守るよりも利益を上げることを優先させていた。そもそも運転手の病気の有無も調べていなかったらしいから、自分たちで事故を起こすのも時間の問題だったのかもしれない」

「詳しいんですね」

 当時は橘先輩も小学生のはず。よくニュースとかをチェックするタイプだったのかな。

「嫌でもあの事故の情報は耳に入ったし」

「もしかして、橘先輩の家の近所で起こった事故だったんですか?」