「子供がなかなかできなかったからよ。それでいろいろと調べたら、原因はお義兄さんのほうにあることがわかったのよね」

「義姉さんはいいところのお嬢さんだったからな、向こうの家と結構揉めたらしい。毎日のように向こうの実家と病院に通って、どうにか説得したらしい」

「それで子供は産めるようになったの?」

 わたしがそんな質問をすると、おじさんは声を上げて笑った。

「おいおい、何をいっているんだ。いま話してるのは遥の両親のことなんだぞ」

 それもそうだ。なに言ってるんだろう、わたし。実際の両親の記憶というものがないからかな。

 はっきりと記憶が戻れば、わたしも両親のことを思い出せるのかな。

 それには事故の過去も受け入れないといけないということだよね。

 わたしにできるのかな。トラウマに押し潰されたりしないのかな。話を聞いただけでも、こんな衝撃を受けてるのに。

 それでも、前に進まないと。

 そうしないと、橘先輩とは永遠にわかりあえない。わたしは逃げないと決めたんだから。

「もしかして、遥、きみが過去を知りたがったのは、この前来た男の人と関係しているのか?」

 橘先輩、のことだよね。高木くんのことは知ってるから、名前で呼ぶはずだし。

「いや、タイミング的にそうかもしれないってふと考えたんだよ。で、どうなんだ。彼氏なのか?」

「そういうことはなるべく聞かないようにしようと、約束したじゃありませんか」

「それはそうだが、気になるじゃないか。もしも心の許せる相手がいるのなら、こういった過去を乗り越えることもできるだろうし」

「ダメです。ずけずけとプライベートに踏み込むと、遥ちゃんに嫌われますよ」

 いつかわたしも、この二人に橘先輩を彼氏だって紹介できるときがくるのかな。

 そうなったら幸せかもしれない、とわたしは思った。