それでも、同級生なんかはそのことを知っている人は多かったはずで、なのに、わたしは事故についてあれこれを聞かれたことが一度もない。

「周りが気を使ってくれたというのもあるんだろう。記憶をなくしてしばらく学校に通えなかったから、通学したときにはみんなあまりこだわりがなかったのかもしれないな」

「この国には他にもいろんなことがあるから、ずっと同じ話題が持たないんでしょうね」

 確かに、世の中のことをあまり知らないわたしでも、大きな災害や事件、事故のニュースは耳に届く。

 少し時間が経てば人の記憶は上書きされてしまい、かつての衝撃も薄らいでしまう。

「わたしが入院していたのはどのくらいなの?」

「数週間くらいだったか。とくに体に悪いところはなかったし、当初は記憶もあったから、自宅でも大丈夫だといわれていたんだ」

「え、記憶があった?」

「ああ。病院に運ばれた直後は、警察なんかの取り調べに対しても具体的に答えていたんだ。それがいつからかなにも思い出せないというようになったんだよな」

「そうね。病院の先生からはショックが徐々に体を蝕んでいくこともある、と聞いていたから、わたしたちとしてはそういうものなんだと受け止めていたのだけれど」

 なんだろう、いまの話を聞くとやけに心がざわざわとする。あまりこれには深く踏み込んではいけないと本能が拒否をしている。

「そ、そうなんだ。ところで、うちの両親って仲がよかったの?」

「ん?事故の話はもういいのか?」

「うん。考えすぎるのも、よくないかなって思って」

「兄さん夫婦はもちろん、仲は良かったが、何度か離婚の危機はあったみたいだな」

「離婚?どうして?」