「もしも、もしもですよ。橘先輩のほうから告白をしてきたら、倉田先輩は付き合ったりしましたか?」

「あなたがそれを聞くの? ある意味では嫌みよね」

 倉田先輩はおかしそうに笑った。

「そうねえ、仮定で言わせてもらえれば、付き合うとは思うわ。でも、その前にかなり悩むでしょうね。本当に慎が過去を乗り越えたのか、すべてを割り切ることができたのか、そこを知らないといけないから」

 倉田先輩が何を知っているのか、わたしにはわからない。
 確かなのは、橘先輩のことを本気で想っているということ。

「それじゃあ今日はこの辺でいいわ。慎との間でなにか進展があったら教えて」

「あの、最後にひとつだけ教えてほしいことがあるんですけど」

「なに?」

「わたしが橘先輩を理解するために必要なことってなんだと思いますか?」

「あなたの過去を話せばいいんじゃない?」

「過去」

「人って共鳴する生き物でしょ。相手の過去を知れば、自分の過去も打ち明けたくなる。そういうものじゃないかしら?」

「……」

「わたしに言えるのはそれくらいね。それじゃあ」

 倉田先輩がベンチから立ち上がり、わたしの肩に軽く手を置いた。そのまま公園を立ち去るのがわかった。