「審査、ですか」

「いまの段階で評価は出さないけれど、どの道、わたしに交際を邪魔する権利はないと思ってるの。慎が納得するなら交際そのものには反対はしないわ」

「倉田先輩は橘先輩のことが好きなんじゃないんですか?」

「どうかしらね。わたしが感じているのはもっと違うなにか、恩義みたいなものかしら」

 倉田先輩がふふっと笑った。

「わたしにはかつて、コンプレックスがあったの」

「……コンプレックス」

「実はわたしね、昔外国に住んでいたの。産まれてすぐに向こうに行って、帰ってきたのが小学校の高学年のときだったんだけど」

 倉田先輩は英語の地域で育ってきたので、日本語はあまり上手じゃなかった。

 両親からは日本語の教育を受けていたのでしゃべれることはしゃべれたけれど、わからない言葉なんかも多かったという。

「日本の小学校に、わたしはなかなか馴染むことができなかった。みんなに外国人とからかわれたりしたから、だんだんとしゃべることが怖くなったの」

 そんな倉田先輩に優しく声をかけたのが橘先輩だったという。

「慎はわたしの悩みを聞いてくれて、たくさん日本語も教えてくれた。他の子達を説教してくれて、塞ぎ込んでいたわたしを救ってくれた。いまのわたしがあるのは、彼のおかげといってもおかしくはない。だから慎は恩人ということになるのよ」

「正義感が強い人なんですね、橘先輩は」

「それはもちろんあると思う。でも同時に、慎のなかにはわたしを見捨ててはおけない事情もあったの」

「事情、ですか」

「コンプレックス」

「え」