「橘先輩が不良だった、ということですか？」

「ええ、そうよ。聞いてないの？」

　わたしはうなずいた。

「まあ、それも当然かしら。いまさら荒れてた過去を誇らしく思うわけもないものね」　
「それ、本当なんですか？」

「もちろん。今度本人に確かめてみたら。認めるかどうかはわからないけどね」

「正直、わたしには橘先輩がそんな人には見えません」

「見えない？」

「あ、話した印象ではそういう感じはしないということです」

「でしょうね。元々そういうタイプじゃなかったのよ、慎は。無理に不良をやってたから、まともに戻るのも早かったわけよ」

　そうなると、あのときに聞いた悪魔という言葉は、高木くんが指摘したように喧嘩が強いことを意味していたのかもしれない。

「だから、なんですね。橘先輩が悪魔と呼ばれていたのは」

「……それも、和久井のやつがいってたの？」

「はい。そこから橘先輩の様子がおかしくなった感じがしたんですけど」

「いまだに気にしてるみたいだからね」

「喧嘩が強いことをですか？」

「そうじゃない。あんたは勘違いをしてるわ。慎が悪魔と呼ばれていたのは喧嘩とは全然関係のないこと」

「どういうことなんですか？」

「わたしの口からはこれ以上のことは言えないわね。本人にも聞かないことをおすすめするわ。向こうから自発的に言ってくるのを待つことね」

　その言い方はまるで、わたしと橘先輩との交際を認めるようなものだった。

　ついこの間、わたしのことをブスとかいってた人とはだいふ態度が違うように感じられた。

「あの、もう怒ったりしないんですか？　別れろとかはいわないんですか？」

「この前のことを気にしてるの？悪かったわね、きついことをいって。とりあえず、どんな女か試したかったのよ。慎がはじめて付き合う相手は必ずわたしが審査をするって決めていたから」