「聞きたいことっていうのは、もしかして慎のこと?」

 公園に来て最初に口を開いたのは倉田先輩のほうだった。ベンチに腰を下ろして、脚を組んでいるようだった。

「はい」

「やっぱり、そうなのね」

「倉田先輩のほうもそうなんですか?」

「ええ。最近、慎の様子がおかしいのよ。表面上は平静を装っているけど、長い付き合いだから、少しの変化でもわかるのよ。聞いてもなにも答えてはくれないから、あんたならわかるんじゃないかと思ったわけよ」

「思い当たるところはあります」

「そう。ちなみに、あんた自身が関係してることなの?」

「たぶん、違うと思いますけど」

「ところで、あなたも座ったら? ここにベンチがあるのは、わかってるわよね」

 バンバンと音がする。倉田先輩がベンチを叩いた音だ。

「大丈夫です」

 できれば相手を正面にとらえたまま話したかった。隣に座ると、相手の姿形がまったく把握できなくなるから。誰かがそこにいるという安心感がほしかった。

「それじゃあ、教えてもらえるかしら?」

 わたしはいった。あの日に起こったことを、前後も含めてなるべく正確に。ただ、悪魔の部分だけは省いて。

「なるほど。和久井のやつと会ったわけね」

 うんざりしたように倉田先輩は言った。

「知り合い、なんですよね」

「そう。中学のときのクラスメートね。とはいっても、わたしはそんなに親しかったわけではないけどね」

「橘先輩の友達、ということですか?」

「友達といえるのかどうかは微妙よね。お互い不良グループの一員だったわけだから」