橘先輩とはそれから疎遠になった。通学路で声をかけられることはなくなったし、電話が鳴ることもなかった。

 あの日のレストランでの出来事が理由になっていることは明白。悪魔と呼ばれたとき、正面から感じる空気の流れみたいなものが変わったから。

 このまま自然消滅なんてこともあるのかもしれない。わたしは当初、そういう結末を望んでいた。

 いまはどうなの?
 このまま別れることを望んでいるの?
 それは違う気がする。

 だって、わたしは割り切ることができない。橘先輩に聞きたいことがある。

 どうしてという疑問が胸に残っている。橘先輩が悪魔と呼ばれた理由。それを知りたいと思っている。

 だからといって、こっちから橘先輩を探すのはとても難しい。わたしはいま目が見えないから。

 悶々とした日々を送っていたある日の放課後、廊下を歩いていると背後から近づいてくる人の気配を感じた。

 橘先輩かな、と期待して振り向いたとき、聞こえたのは倉田先輩の声だった。

「ねえ、あんた、ちょっといいかな?」

「橘先輩のことですか?」

 わたしが近づいて食いぎみに聞くと、倉田先輩は少し気圧されたみたいな反応を感じた。

「あ、そうだけど。なんでわかったの?」

「実はわたしも聞きたいことがあって」

 そういいかけて、わたしはまだ辺りに生徒が残っていることに気づいた。

「すいません。もっと別のところに移動したいんですけど。できれば静かなところで」

 倉田先輩はわたしの申し出を受け入れてくれた。細かい説明も求められなかった。

 そうして連れていかれたのは学校近くの公園。倉田先輩の話だと子供が遊ぶような狭い児童公園のようだけれど、音を聞く限りでは誰もいないようだった。