「それでも、いつかは知らないといけないんじゃない?」

「そうですね」

 橘先輩が苦しそうな声を上げて、手で頭を押さえたことがわかった。

「どうしたんですか?」

「なんでもない。ちょっと、頭が混乱しているだけで」

「混乱?」

「いいから、気にしないで」

 そう言った直後、あれは……と橘先輩が窓のほうに顔を向けたのがわかった。この席は窓際からは少し離れていた。

「どうかしましたか?」

「いや、知り合いに似た人がいただけ」

「倉田先輩のことですか?」

「篠崎さん、あいつのこと、知ってるの?」

 しまった。わたしと倉田先輩が知り合いだなんてこと、橘先輩は知らないんだった。

「あ、実はこの前、声をかけられて」

「もしかして、ぼくの告白のことで?」

 ここまで来たら認めるしかないよね。倉田先輩には悪いけど、誤魔化しようがないし。

「はい」

「別れろとか言われたんだ」

「……それは、その」

「いいよ、無理に答えなくても。あいつにはぼくから言っておく。篠崎さんに迷惑をかけるようなこともしないから」

「すいません」

「だから、謝ることじゃないよ」

「あれ、おまえ、橘じゃねえ?」

 そのとき、こちらのテーブルにひとりの誰かが近づいてくるのがわかった。声は若い男性のもの。