「それって、夢とは違うんじゃない?」

 橘先輩は知らない。わたしの両親が死んでいることを。

 わたしは昔から思っていた。
 夢なんて追いかけちゃダメだって。

 わたしを引き取ってくれたおじさんとおばさんのためにも、堅実な仕事を選ばないといけないって。

「わたしの両親、もう死んでるんです」

 橘先輩が息を飲むのを感じた。

「今お世話になっているのが親戚のおじさんとおばさんで、だから二人にあまり迷惑にならないような生き方をしたいんです。それがわたしの一番の願いなんです」

 そのためのコンプレックスプランでもあるから。

 この試練を乗り越えれば、おじさんとおばさんにお世話になったぶんのお金を返すことができる。ある意味ではこれがわたしの夢かもしれない。

 橘先輩がじっとこちらを見ているのがわかった。コップを持ち、水を飲んでいる動きが把握できる。

「どうして亡くなったのか聞いてもいいかな?」

「事故だったと聞いています。具体的なことはわからないんですけど」

「具体的なことがわからない?」

「わたしも事故に巻き込まれたみたいなんですけど、その当時の記憶がないんです」

「記憶がない……」

「はい。ショックですべてを忘れたみたいです。おじさんたちにもまだ詳しいことは聞いてないんです」

 すらすらと話せていることが、自分でも驚きだった。

「知りたいとは思わないの?」

「そうですね。そういう気持ちがないとはいえないんですけど、なんとなく怖くて」

「怖い」

「よくわからないんですけど、心のどこかで知りたくないっていうバリアが張ってるみたいなんです」