電車を降りて街に出ると、うるさいくらいの雑踏と人の気配がわたしを包み込んだ。目が見えないぶんより強烈に変化を感じ取った。

「困ったことがあったら、正直に言ってね。ぼくにはわからない不便なところとかもあると思うし」

「は、はい」

「まずは街を適当に歩いてみよう。雰囲気になれておいたほうがいいからね」

 わたしと手を繋ぎながら、橘先輩は街を案内してくれた。
 あそこにはああいうお店があるとか、ここにはこういう歴史があるとか、そういう細かい情報を教えてくれた。

 映画館の場所を教えてくれたとき、橘先輩はなかに入ってみようかとわたしを誘った。
 わたしが目が見えないことを知った上での行動だった。先輩はあくまでもわたしを普通の人として扱ってくれた。

 そうすることでわたしから劣等感を取り除こうとしていることが伝わってきた。

 映画は恋愛もので、会話を聞いているだけでも内容は把握することができた。
 主人公はわたしたちと同じ高校生で、タイトルは違ったから後で気づいたのだけれど、どうもわたしの知っているマンガが原作みたいだった。

 橘先輩とデートをしていると、わたしは昔から目が見えなかったんじゃないかと思い込む時間帯もあった。

 いまこの瞬間がわたしのすべてで、そうやって何もかも預けた状態で先輩の隣にいることが心地よかった。