「なんとなく、女性に興味が持てなくてね。周りのみんなに恋人ができても、そこまで焦りもしなかったし」

 じゃあどうしてわたしのことなんか好きになったんですか?そんな疑問がさらに強くなった。

「じゃあ、篠崎さんはデートとかしたことないんだね」

「は、はい」

「街のほうに行ったことはある?」

「いえ。人混みは苦手なので」

 これは目が見える見えないはあまり関係ない。元々わたしは人混みは嫌いなほう。

 わたしが住んでいるのは住宅街で、商業施設やビルがたくさんある街の中心部からは離れている。

 買い物をするところはこちらにもあるし、わざわざ遠出をしてまで欲しいものもなかったので、わたしはこの辺りからあまり離れたことはなかった。

「じゃあ、今度の休み、街のほうに一緒に出かけようよ」

「え?」

「人の多いところは不安だろうけど、大丈夫、ぼくがついているから」

 橘先輩がわたしの手をつかんでぎゅっと握りしめる。

「篠崎さんがいろんな不安を抱えていることはわかったよ。目が見えないせいで自分で世界を狭めていることも。でも、このままだと、いつまで経っても同じところをグルグル回るだけじゃないかな。いま一本外に踏み出さないと、将来、就職や進学で別の街に移ったときにも対応できないよね。そのための練習としてもデートするのはどうかな?」

 想定していた流れと、どんどん違うほうに進んでいる。え、これってもう、付き合うってことが確定なの?

「どうかな。まだ怖いという気持ちがあるのなら、慌てなくてもいいとは思うんだけど」

 なんだかもう、断れない雰囲気がある。どうしよう。
 というか、これ以上、橘先輩を失望させたくない、嘘はつきたくない。だってこれだけわたしのことを心配してくれているんだから。

「……わたしでいいんですか」

 そんなことを言ったら、もうオッケーっしてるも同然だよね。これがわたしの本音ってこと?

「うん。篠崎さん、きみじゃなければ、ダメなんだ」

 橘先輩の笑顔が見えた、そんな気がした。