橘先輩は何も言わない。いま、どんな表情をしているのだろう。それがわからないのはもどかしかった。

「わたしは目が見えません。先輩の顔もよくわかりませんし、こんな状態ではいろいろと迷惑をかけてしまいます。高校入学して間もないので、まだ周囲の環境にも慣れていないんです。だからいま誰かと付き合うとか考えられないんです」

 本当はもっとうまい言い方があったように思う。わたしは焦っていて、つい早口で言ってしまった。

「……それって断る理由になってるのかな」

「え?」

「ぼくのことが好きなのかどうか、それに触れていない。君はぼくのことをどう思っているのか、それを教えてほしい」

 わたしが橘先輩のことをどう思っているのか。まだ会ったばかりで、よくわからない。

「その、顔もわからない人とは付き合えないというか」

「それだと、一生結婚しないということにもなるけど」

「わたしなんかと付き合ったら、橘先輩にもいろいろと迷惑をかけると思います」

「それは目が見えないから?」

「はい」

「確かに君は目が見えない。それは一般的に大きなハンデになると思う。でも、それを言い訳にしたら一生誰とも付き合えないんじゃないかな?」

「……」

「他にも目が見えない人は世の中に大勢いるけど、みんながみんな人生を諦めているわけじゃない。前向きに生きようとしているだってたくさんいるよね」

 その通りだ。目が見えないからということを理由にしちゃいけない。

 じゃあ、単純に嫌いだと言えばいいのかな? 

 でもそれだと橘先輩は納得しないと思う。目が見えない以上、顔はわからないから好みの容姿じゃないという言い訳はできない。
 知り合って間もないから、性格が合わないという理由も通用しない。