「そういえばさ、登校はいつもひとりなの? この前もそうだったよね」

「普段は友達と通学しています。いまはちょっと体調を崩しているのでひとりなんです」

「大丈夫?ひとりだと事故とかには遭わない?目が見えないといろいろ大変だよね」

 橘先輩はこれがコンプレックスプランの影響だとは気づいていない。
 そういう仕組みだというのは知ってはいるど、なんだか不思議な感じは抜けない。

「平気です。真っ暗闇というわけではないので」

 周辺の地理は頭に入っている。少し歩いた感じでは迷ったりすることもないと思う。

「そうかな。いくら篠崎さんが注意をしていても、向こうからぶつかってきたりすることはあるよね」

 確かにこれから安全に毎日を過ごせるとは限らない。必要以上に出歩くことは避けたほうがいいのかも。

「明日からは家の前まで迎えに行ったほうがいいよね。何時くらいに家を出るのか教えてくれる?」

「いえ、大丈夫です。通学路くらいならどうにかなるので。橘先輩も無理に早起きしたくないですよね」

「恋人同士なら、これくらい当然だよ。とくに目が見えないならね」

 橘先輩はわたしが告白を受け入れたと思ってるのかな。わたしはまだ、明確な返事はしていなかったはず。

 橘先輩のことを、わたしは振らないといけない。そのためのコンプレックスプランでもある。
 相手の顔をはっきりと確認できないということは確かに気持ち的に楽な感じがした。

「あの、橘先輩。この前の告白のことですけど」

「うん」

「生意気に思われるかもしれませんけど、断らせてください」