梨子ちゃんがいてくれれば助かるのに、とわたしはゆっくりと歩きながら思った。

 梨子ちゃんは今日も学校休みなのかな。もしも元気になっていたなら、梨子ちゃんの性格を考えると、わたしの家まで迎えに来てくれてもおかしくないはずだけど。

 コンプレックスプランの間は、人間関係も変わることがある。わたしの場合は目が見えないから、一緒に歩くだけでもいろいろと気遣いをしないといけなくなる。

 梨子ちゃんからすればそういうのが面倒だと考えても不思議じゃないし、他の友達と仲良くしたほうが楽。

 だから、しばらくはわたしのことを無視することだってあり得る。

 とはいっても、コンプレックスプランの期間が終われば、関係性は再び元に戻るとされている。寂しい気持ちはあるけど、少しの我慢だと自分に言い聞かせるしかない。

「やあ、おはよう」

 正面から近づいてきた人に急に声をかけられ、わたしは飛び上がるほど驚いた。

「あ、ごめん。驚かせちゃったかな?」

「橘先輩?」

 男性の声だというのはわかったけど、誰のものかはすぐには断定できなかった。

 わたしに用事がある男性というのは橘先輩くらいしかいないだろうな、ということでそう指摘してみたんだけど。

「うん、そうだよ」

「あ、おはようございます」

 知らない人じゃなくて良かった。誰かと間違えて声をかけたって可能性もあるから。

「ごめん、この前は迎えに行くとき連絡するって言ってたけど、今日は忘れてしまったんだ。篠崎さんに早く会いたくてさ」

「わ、わたしにですか」

「うん」

 改めて思う。わたしにはそこまで価値なんてものはないって。