翌朝目覚めたとき、わたしはその違和感にかなり戸惑った。まだ夢の中にいるのかな、最初はそう錯覚した。

 でも、これは現実なんだとすぐに理解した。手足の感覚はあるし、冷静にものを考えることもできる。

 昨日のこともはっきりと覚えている。コンプレックスプランの通知が来た後、どんな文字をスマホに打ち込んだのかも。

 目を開けているはずなのに周りは真っ暗で、ほとんど何も見えない。

 すごく寝たなという体の感覚や外の人が動いている雰囲気から朝だというのはわかるけど、朝日を直接認識することはできない。

 わたしは確かに視力を失っていた。

 昨日、コンプレックスプランに登録したもの、それが失明だったから。

 その理由はいくつかある。

 まず、これなら自分の顔が確認できないということ。

 鏡を見てがっかりするということはなくなるし、自分のレベルというものがわからないということは、周りからブスのくせにという批判もなくなる。

 橘先輩だってイケメンがどうかは判断できない状態で、わたしが振ったとしても文句を言う人はいないはず。

 目が見えないのなら仕方がない、そう納得するはず。
 生意気なやつだと批判されることはないし、あの顔を見なければ動揺することもせずに「ごめんなさい」を伝えることもできる。

 それに、おじさんとおばさんのためにもなる。失明というのは大変な苦労を伴う。それだけにコンプレックスプランの評価も高くなると思う。

 失明と言っても、全く何も見えないというわけではなかった。

 しばらく周囲を眺めるようにしていると、景色の輪郭というものが段々とつかむことができた。

 部屋の大きさはなんとなくわかるし、どこにドアがあるのかということも理解できる。