「ほんと? 心当たりとかないの?」

「な、なにもないです」

わたしの表情から嘘を見抜こうとするみたいに、倉田先輩は顔を近づけてきた。

「もしかして、慎ってブス専なわけ? そういうのってたまにいるでしょ。美人には全然ときめかないってやつが。そういえばこの国の人間ってちょっとブサイクなほうに引かれるって聞いたことあるけど、つまりそういうことなの?」

「……」

こんな風に直接ブスだなんて言われたのは初めてのことだった。
かわいくないのは自覚があったけれど、それでも胸が苦しくなった。

わたしにだって人としての最低限のプライドはある。

言い返したい気持ちだってある。

いくらなんでも失礼なんじゃないですかとか、先輩でもいっていいことと悪いことがあるとか、そんな言葉を胸で繰り返すだけだけど。

「どうしても信じらんない。もしかして遊びなのかな? ほら、男って美人に飽きることがあるとか言うじゃない。まあ、あいつの場合、遊んでるわけじゃないから、これはさすがにないか」

遊んでない。つまり橘先輩は真面目な人だってことだよね。
じゃあやっぱり、あの告白は本気だってこと。

「で、キスとかしてんの?」

「き、キス?」

「なに戸惑ってるよ。いまどきの学生なんてそれくらい簡単にしちゃうでしょ」

「そ、そんなのありません! だって昨日会ったばかりなんですよ!」

「ふーん。まあ、これは冗談よ。あんたがどんな女なのか調べるためのね」

冗談でも心臓に悪いよ。一瞬でも橘先輩とそういうことしてるところ、思い浮かべちゃったから。

それにしても、この倉田先輩と橘先輩の関係ってどういうものなんだろう。

ここまで話を聞いた限りでは単なるファンではなくて、もっと親しい間柄のような気もするけど

「あの、倉田先輩は橘先輩とどういう関係なんですか?」

「昔からの知り合いだけど」