「す、すいません」

わたしはつい、頭を下げてしまった。そんなことしなくてもいいはずなのに。

「謝るってことは、慎とは不釣り合いだという自覚があるわけね」

「それは、はい、あります」

これは認めないわけにはいかない。本来なら、わたしは橘先輩の隣にいちゃいけないタイプ。

「よかった。その顔で図々しい性格をしてたら、根性を叩き直してやらないと気がすまなかっただろうから」

根性を叩き直す……どういう意味だろう。

暴力とかなのかな。
殴ってしつけるみたいな。

もしかして倉田先輩って不良とか? 
そんな雰囲気は確かにある。

こんなところに連れてこられたってことは、やっぱりボコボコにされちゃうのかな。

「で、どうなの?」

「え?」

「だから、告白された理由ってなんなのかを聞いてるのよ」

倉田先輩は人差し指をこちらへと伸ばし、わたしの鼻をつんつんとつついた。

「わかりません。橘先輩からなにも聞いてないので」

「聞いてない? そんなはずないでしょ。告白されたなら、どうして自分を好きになったんですか、って普通は問い返すでしょうが!」

「本当に知らないんです。その、わたしは突然のことに戸惑っていて、やりとりもあまり覚えていないんです」

本当のところはかなり覚えているけど、こう言ったほうが倉田先輩が納得してくれるんじゃないかと思った。

「……昔からの知り合いだからとかではないのね」

「はい。会ったのは昨日がはじめてなんです」

「なにもないってことは、さすがにないでしょうよ。あんたなんか隠してるんじゃないの?」

睨み付けるようにされても、わたしに答えられるものはなかった。
首を振るくらいのことしかできなかった。