それでさらに距離が縮まって、こんなふうに異性と触れ合ったことのないわたしはどきまぎするばかりだった。

「た、橘先輩はマンガとか読むんですか」

赤面したことをごまかすようにして、わたしは言った。

「たまに読むよ。弟が貸してくれたりするしね」

へぇ、弟がいるんだ。きっと橘先輩に似てカッコいいんだろうなあ。

「そうですか。それじゃあ今度、わたしのお気に入りも貸してあげますね」

「それって少女マンガ?」

「……あっ」

男性に少女マンガをすすめるなんて、わたしホントバカだ。

特にわたしが好きなのは恋愛ものだし、男性にとってはなんの感情移入もできないよね。

「篠崎さんが選ぶならなんでもいいよ。朝にも言ったよね、好きなものを交換しようって。そうやってお互いのことを知るのって重要だと思うから、今度学校に持ってきてよ」

「え、でも、学校にマンガなんて持ってきたら先生に怒られますよ」

実際のところ、男子なんて休み時間には平気でマンガとか読んだりゲームをしてたりするから、そこまでこだわることでもないのかもしれないけれど。

「なら、今度篠崎さんの家に直接行ってもいいかな?」

「わ、わたしの家にですか?」

「ダメかな?」

「そ、それは、ちょっと」

家にくるってことは、わたしの部屋で二人っきりになるってことだよね。

いくらなんでも刺激が強すぎる。まだ橘先輩とは出会ったばかりなのに。

そのとき、図書室で勉強をしている人たちから視線を集めているのを感じた。

今回のものは嫉妬とか疑問とかそういうんじゃなくて、もっと単純な怒りからくるものだった。

知らないうちに、わたしたちの声は大きくなっていた。

お昼休みの勉強を邪魔してしまったみたいだった。わたしと橘先輩は目を見合わせて、静かにその場を立ち去った。