「いえ、読んだことはないですね」

「そうか」

なんか残念そうな声。

たぶん、そんなに有名な作品じゃないから、読んでなくてもおかしくはないと思うけど。それともわたしが知らないだけなのかな。

「これのどういうところが面白いんですか?」

「児童書ではあるけど、物語はとても深いんだよね。だから高校の図書室にも置いてあるんだと思う。詳しい内容は言わないでおくよ。先入観がないほうが面白いからね」

わたしたちは小声で話している。

お昼休みの時間帯でも図書室で勉強をしている人がいるので音量には気をつけないといけない。

それにしても、そういう人たちってお昼ご飯はどうしてるんだろう。まだお昼休みに入ってすぐだけれど。

「とにかく読んでみてよ。後で感想を聞かせてほしい」

「わかりました」

どうせ友達も多くないから、読書に割く時間はたくさんある。橘先輩のおすすめでもあるし、家に帰ったら読んでみようかな。

「篠崎さんが好きな本はここにはある?」

「えっと」

わたしはとりあえず周囲を見回したけど、こんなところにないのは最初からわかっていた。

わたしが読むのはいわゆる少女小説で、学校の図書室にはあまり置いていないものだから。

「すいません。ないみたいです」

「そっか。読書はマンガがメインだって言ってよね。ここにはさすがにマンガは置いてないよね」

「そ、そうですね」

詳しく聞かれなくてよかった。少女小説なんて橘先輩は知らないだろうから。

「ん? 肩にゴミがついているよ」

橘先輩がわたしの肩をはたくようにする。

小声で話しているから、わたしと橘先輩は寄り添うようにして立っていた。