仮にそうだったとしても、食べられないものが置いてあるわけじゃないよね。

ここで食中毒が起きたって話も聞いてないし、たぶん大丈夫だと思うけど。

「わたしはあまりそういうの気にしないので」

「なら、じゃんけんで決めようか」

「じゃんけん?」

「購買部に残った商品を買って、それをぼくのパンと一緒にする。その上でぼくと篠崎さんがじゃんけんして、勝ったほうから選んでいくっていうのはどうかな?」

それって橘先輩にメリットある? わたしが得をするだけじゃないかな。

「いいよね?」

「は、はい」

いいのかな? よくわかんないけど、せっかくの橘先輩の好意を否定することはできなかった。

「購買部が空くまで少し暇を潰す必要があるよね。図書室に行くっていうのはどう?」

ここにもおすすめの本があるんだ、と橘先輩は言った。

わたしは「はい」と答えた。

ここには人がたくさんいる。
それはつまり、こっちを見てくる人も多いということ。

図書室なら静かだし、余計な視線もあまり気にならない。わたしは逃げ出すようにして購買部を後にした。

図書室で橘先輩が選んでくれた本は複数あって、そのなかでもお気に入りだというのは一冊の児童書だった。

「これは人形のお姫様の物語なんだ。なにかに操られていることを知りながらも、自分を追い求めていく話で、子供の頃、これを読んだときは自然と涙が出てきたことを覚えているよ」

あれ、おかしいな。
だって橘先輩は高校生になってから本を読むようになったと言っていたよね。

いまの発言とは矛盾するようにも思うけど。勘違いでもしてるのかな。そうだよね。

「篠崎さんはこれ、読んだことある?」

わたしは本を受け取り、タイトルを眺めた。