「橘先輩は購買部に用なんですか?」

「いや、ぼくはコンビニで買ってきてたから」

そう言って、橘先輩はビニール袋を掲げて見せた。中にはパンが入ってるみたい。

「こっちに来たのは飲み物を買うためだよ。自動販売機はここにしかないからね」

自動販売機はわたしの近くにあって、橘先輩はその前に立った。
小銭を投入口に入れて、カフェオレのボタンを押す。

「篠崎さんもなにか飲む? おごってあげるよ」

ぐぅ、とタイミングを見計らったようにわたしのお腹が鳴る。

それは周囲にも聞こえるくらいに大きな音だったけど、橘先輩はとくに表情は変えなかった。

「そっか。まずは食べるものを選ばないと飲み物も決まらないよね。でも、購買部はいまはあの状態だし……普段はどうやって買ってるの?」

「わたしも途中のコンビニで買ってるんですけど」

「今日は忘れたの?」

そう言った直後、橘先輩はハッとしたような顔になった。

「もしかして、ぼくのせいかな? ぼくが一緒にいたからコンビニに立ち寄ることを忘れたんじゃない?」

「いえ、橘先輩のせいだとか、そんなんじゃないです。わたしがボーッとしてただけで」

「じゃあ、これあげるよ」

橘先輩は袋からひとつのパンを取り出した。メロンパンだった。

コンビニの独自商品で、しっとりタイプのもの。

わたしはバタバタと両手を振った。