「篠崎さんが望むのならそうするけれど……迷惑だった?」

「そんなことはありませんけど、わたしも気を遣いますから。寝坊をしたり学校を休んだりしたときはどうすればいいのかって」

「そんなのケータイに連絡してくれればいいんだよ」

「……」

うまい言い訳が思い付かない。

橘先輩はイケメンだから、わたしみたいな立場の人間の気持ちは理解できないんだろうなぁ。

「もしかして篠崎さん、電話とか苦手な人? そういう人って結構いるみたいだけど……メッセージだけのほうがいい?」

「えっと、その」

橘先輩には悪気なんてもの一切ないんだろうけど、わたしは段々と追い込まれていく。頭の中がごちゃごちゃしてきて、もう歩くのが精一杯になっていく。

「あ、そろそろ学校に着きますよ」

「え? ああ、そうだね」

学校が近づいてきたから、わたしはどうにか話を打ち切ることができた。

校舎に入って橘先輩と別れた瞬間、わたしは全身から空気が抜けるくらいに息を吐き出した。