「今日は……すいません。ちょっと用事がありますから」

もちろんこれは嘘。放課後は家に帰るだけ。あまりにも急すぎる展開に動揺しているから、少し落ち着きたかった。

「それは残念だな。一緒に本屋によって、小説選びを手伝ってもらいたかったんだけれど」

「本が好きなんですか?」

「高校に入ってから読むようになったんだよ。好きなのはミステリーとかかな。昔は活字なんて全然ダメだったんだけどね」

「きっかけとかはあったんですか?」

「周りにすすめられたからだよ。篠崎さんも読書をするんだよね」

「はい。小説も読みますけど、わたしの場合はマンガが多いですね」

「マンガか。今度さ、面白いやつを貸してよ。ぼくもお気に入りの小説を貸してあげるから」

気づけば橘先輩と普通に会話を交わしている。まるで恋人同士みたいに。

そうやって意識をしてしまうと、また周囲の視線が気になってしまう。だめだな、わたし。こんなのを続けてたら心が持たないかも。

「……あの、こういうのはもういいですから」

「こういうの?」

「わざわざわたしのことを迎えに来てもらわなくてもいいということです。こっちのほうまで来るのも面倒、ですよね」

周りの目が気になるから、という本音は言えなかった。
そんなことを言ってもぼくたちが気にしなければいいと返されるだけだから。