「どうかした?」

言えないよ。本当のことなんて。

昨日の屋上ではわたしと橘先輩は似合わないみたいなことを言ったけど、こんな状況でそれを伝えるのはなんだか嫌だった。

「ところで篠崎さんって、部活とかはやってるの?」

「いえ、なにもしていません」

「中学のときも?」

「一応、中学生のときは入ってましたけど」

「ふーん」

言いにくそうな感じが伝わったのか、橘先輩は具体的なことは聞いてこなかった。

別に恥ずかしがることでもないけど、バカにする人もいるし、橘先輩がまだどういう人なのかはわからなかったから言いづらかった。

「そっか。ぼくもなんだよ。部活って入ったことないんだよね」

「スポーツとか上手そうですけど」

「どうかな。そういうのって実際にやってみないとからないよね」

橘先輩はスリムだし、爽やかな感じがするから、なにもやったことがないっていうのは意外な印象だった。

「それじゃあ、今日の放課後は空いてるんだね」

「暇ではありますけど」

「一緒に行ってほしいところがあるんだけど、いいかな?」

で、デートってこと? そこまでじゃない? 
どちらにしても放課後に寄り道するなんて、青春そのものだよね。

とはいっても、素直に喜べることでもないかな。
いまですら視線の集中砲火を浴びているのに、時間の縛りがない放課後だったらなおさらだよ。

橘先輩と別れたとたんに絡まれたりするかもしれない。おまえ生意気なんだよとか言われてボコボコにされるのかもしれない。