おばさんがさりげなくそう言ったので、わたしは一瞬、聞き流しそうになった。

「え、そうだったの?」

「ええ。一時は養子をとろうとも考えたけれど、いつか治療の結果が出るんじゃないかと期待して……それで時間だけが過ぎていったのよ」

「不妊治療も当時はいまほどじゃなかったからな、結局は諦めるしかなかったんだよな」

おばさんはいつもニコニコしていて、そんな過去があったようにはとても見えない。

どうしておじさんとおばさんに本当の子供がいないんだろうと考えたことはあるけれど、世の中にはそういう人も結構いるからと勝手に納得していた。

「……どんな両親だったの?」

こんな質問ができるようになったのは、おばさんが自分の過去を話してくれたからかもしれない。

家族であってもなかなか言えないようなことも教えてくれて、それがわたしの心から少しだけ恐怖を取り除いたのかもしれない。

「真面目な二人だったよ。兄さんなんかは奥手で、初めて本当に好きになったのが遥のお母さんだっていってな」

「優香里さんはどちらかというと気の強い人だったわよね。お兄さんは仕事には熱心だったけどだらしのないところがあって、服装の乱れとかよく注意をされていたわよね」

優香里は本当のお母さんの名前。
さすがにわたしでもそれくらいは知っている。ちなみにお父さんは隆というらしい。写真で顔も見たことはある。

「そういう関係を楽しんでいたのかもしれないな。うちの親はあまり叱るようなタイプじゃなかったから、兄さんもそうやって厳しく指摘されるのが楽しかったのかもしれない」

「あなたにもそういうところあるものね」

おばさんがクスクスと笑った。

「いや、兄さんよりはしっかりしてるよ」

「そうかしら。だらしのないところはそっくりだと思うけど」

「この年齢の男なんて、みんなそんなもんなんだよ」