「わたしたちには子供がいなかったから、あなたを迎えるのも当然だと思ったのよ」

わたしは両親のことをほとんど覚えてはいない。物心のついたころにはこのおじさんとおばさんに育てられていた。

それでも二人のことを両親と呼べないのは、かすかに両親の記憶が残っているからだと思う。

それは明確なものではなくて、二人と触れあったような映像は思い出せないけど、漠然としたイメージがわたしの心の奥底に染み付いて離れようとはしない。

わたしの両親が死んだのはいまから十年くらい前のこと。

交通事故だと聞いている。
わたしもその事故に遭った。
記憶を失ったのはその衝撃が原因らしい。

とくに事故前後の記憶というものは、全然思い出すことができない。

どんな事故だったのかも、おじさんとおばさんからは聞いてはいない。
二人ともあまり話したがらなかったから、わたしもしつこく尋ねることはしなかった。

わたしのなかにもなんだか怖いという気持ちがあった。
なぜかはわからないけど、知りたくないといつも思ってしまう。実際にはこっちのほうが理由としては大きいのかもしれない。

もしもわたしが知りたいとお願いすれば、おじさんとおばさんは話してくれたと思う。

「面倒だとか思わなかった?」

「そんなことひとつも思わなかったよ」

「この人はなにも言わなかったけれど、お医者さんに子供ができる体じゃないって言われてから、わたしはずっと罪悪感を抱いていたの。その重みが遥ちゃんのおかげて軽くなった部分もあったのよ」