わたしはすごく驚いた。てっきり近くにある回転寿司のお店に連れていかれると思っていたから。少なくとも前はそうだった。

「なんでも好きなものを注文しなさい」

「わからなかったら、お店の人におまかせしてもいいのよ」

わたしには味の違いなんてわからない。
安いのも高いのも一緒。

むしろ、高級な雰囲気もあるから緊張してしまって、いつもよりも味がわかりそうもなかった。

でも、適当に注文をして、美味しいって言わないといけない。

「うん、美味しいよ」

そう言うと、おじさんもおばさんもはホッとしたような笑顔を浮かべる。

わたしの反応を息を詰めるみたいに待って、それから表情をほころばせる。

こういうことは前にも何度かあった。
わたしはそのときの二人の顔をはっきりと覚えている。

「そうか、よかった。ここには前から連れてきたいと思っていたんだ」

「そうなの。いつかは必ずこのお店に遥ちゃんを連れていきましょうねって二人で何度も話してたのよ」

わたしがこのお店に来たのは今日がはじめてだった。おじさんとおばさんにはなにか特別な思い入れがあるようたけれど。

「このお店に何かあるの?」

「ここは兄さんがプロポーズした場所なんだよ」

おじさんのお兄さん。
それはつまり、すでに亡くなっているわたしの本当のお父さんということだ。