冷たい人なのだろうと想像していたけど、実際にはそんなふうには思えなかった。
 橘先輩に対する態度も普通の親のそれだった。
 息子が死ぬかもしれない、そんな恐怖が彼女を変えたのかもしれない。

「……そばかすが原因だっていってたよ」

「そばかす?」

「うちの母さんのこと。子供の頃、母さんはそばかすがひどくて、学校でいじめられたんだって。ぼくのやけどの跡を見たとき、母さんはそのときのことを思い出したっていってた。二度とあんな思いは味わいたくないから、母さんは肌の手入れには人一倍気を使っていたんだ。だから、シミのように見えたぼくのやけどの跡に過剰な反応をしたらしいんだ」

「そうだったんですか」

 そばかす。これもコンプレックスかな。

「篠崎さんのほうは大丈夫?まだ友達のことで苦しんでるんじゃない?」

 わたしは梨子ちゃんの死を完全に受け入れられているわけではなかった。
 夜中にふと梨子ちゃんのことを思い出して、涙を抑えられなくなることもある。

「いまも後悔が消えないんです。どうして梨子ちゃんの気持ちに気づいてあげられなかったんだろうって」

「仕方がない、と割り切るよりはよっぽどいいと思うよ。その悔しさが友達に対する想いでもあるわけだから」

 一生この後悔は消えないのかもしれない。
 それもいいのかもしれない。
 梨子ちゃんのことをずっと忘れないということでもあるから。

 それからも夏の日差しのもと、わたしたちは会話を続けた。
 子供の頃の病院での出来事や、なんでもないような世間話まで。
 事故に遭ったときのことも聞くことができた。

 わたしはまだ、あの事故のことを思い出してはいなかった。
 橘先輩と本気で向き合うには、過去を取り戻す必要がある。