わたしがもし誰かと交際するのなら、そのときには結婚の二文字が頭に浮かぶはず。だって……。
「遥ちゃん、もしかしていま、両親のことを考えてるの?」
梨子ちゃんは勘が鋭い。わたしの頭の中なんて丸見えかも。
「わたしはやっぱり、家族を求めてるのかも。だから適当な感じで付き合うっていうのは難しいかな」
「それじゃあ、もっと橘先輩のことを知った後でないと返事もできないってことかな」
わたしが橘先輩を待たせるだなんて、なんだか偉そうだなと思った。
「橘先輩が本当に遥ちゃんのことが好きなら、しばらく待ってくれるよね。それならあまり焦らないほうがいいかもね」
「でも、橘先輩は三年生だから」
卒業が近づけば近づくほど、橘先輩もいろいろと忙しくなる。
わたしなんかに構っていられなくなるだろうし、橘先輩の進路がどうなるかなんてわからないけど、高校を卒業してしまえば会いにくくなるのも確実。
いつまでも結論を長引かせるということは、基本的にはできないと思う。
「受験生なのに告白をしてきたんだから、それだけ強い気持ちがあるってことなんじゃない? 遠距離も覚悟してるのかもしれないよね」
「わたしなんかにそこまでの感情あるかな……」
「だから、もっと前向きにならないとダメだよ。告白をされたのは事実なんだから。それに、前にイケメンと付き合えるなら死んでもいいとか言ってたよね」
「言ってたけど、本当にそうなるとは思ってなかったし」
妄想だけがすべての頃はそんなことも言っていた。いま考えると、あのときが一番楽しかったような感じもする。
こう言ったらなんだけれど、もっとランクの低い男子だったらここまで思い悩む必要もなかったのかもしれない。
初めて付き合うのが橘先輩だなんてプレッシャーが強すぎるよね。むしろ、ドッキリとかのほうが気が楽かもしれない。
「ところで、梨子ちゃんのほうはどうなの? いまは誰かと付き合うことを考えてるの?」
梨子ちゃんもわたしと同様で、これまで誰とも付き合ったことがない。
でもそれは、わたしの事情とはずいぶん違う。
梨子ちゃんはこれまで、何回も男子に告白されている。
その中には学年で一番人気の男子もいた。
けれど梨子ちゃんはそれを全部断っている。相手が好き嫌いとかじゃなくて、前のお父さんとのことが影響しているから。
梨子ちゃんの両親は梨子ちゃんが幼いころに離婚している。お父さんの不倫が原因だった。
お母さんと別れる前には暴力なんかもあったみたいで、だから梨子ちゃんのなかには男性に対する不信感みたいなものがある。
そういう意味ではわたしと似たようなところがあるのかもしれない。
「……梨子ちゃん?」
わたしから視線を外したまま、梨子ちゃんはなんの反応も示さなかった。
まだ前のお父さんの記憶が残ってるのかな。だとしたら悪いことを聞いたかも。
「ごめんね。嫌な記憶を思い出させちゃったよね」
「大丈夫。気にしてないよ」
梨子ちゃんとはクラスが離れているから正確なところはわからないけど、この容姿なら高校でもきっと異性に人気あるよね。
同じクラスの男子みんなに告白をされてるから、面倒とか思ってるくらいかも。
「ねえ、梨子ちゃん、もしも、わたしが橘先輩と付き合うことになったら、梨子ちゃんも誰かと付き合ってよ」
「え、どういうこと?」
「ダブルデートって夢だったんだ。梨子ちゃんとわたしと先輩と誰かの四人でどこか遊びに行こうよ」
梨子ちゃんがわたしの背中を押してくれるのなら、わたしも同じことをしてあげないといけない。
橘先輩と付き合うと決めたわけじゃないけど、梨子ちゃんが前向きになってくれるなら、それもアリかなと少しは思ってる。
「わたしは……」
「勇気が必要だって、梨子ちゃん言ったよね。それ、わたしからも言わせて。前のお父さんのことを忘れることも勇気だよ。いつまでも昔のことにこだわっていたら、梨子ちゃんが幸せになれるチャンスを逃すんだよ」
「……そうかな」
「辛いことは一緒に乗り越えようよ。無理矢理に誰かを好きになる必要はないけど、心を開いておく必要はあると思う」
「遥ちゃんもだいぶ前向きになったね」
梨子ちゃんはわたしに笑顔を向けた。その表情はどこか、ぎこちなかった。
「遥ちゃん、もしかしていま、両親のことを考えてるの?」
梨子ちゃんは勘が鋭い。わたしの頭の中なんて丸見えかも。
「わたしはやっぱり、家族を求めてるのかも。だから適当な感じで付き合うっていうのは難しいかな」
「それじゃあ、もっと橘先輩のことを知った後でないと返事もできないってことかな」
わたしが橘先輩を待たせるだなんて、なんだか偉そうだなと思った。
「橘先輩が本当に遥ちゃんのことが好きなら、しばらく待ってくれるよね。それならあまり焦らないほうがいいかもね」
「でも、橘先輩は三年生だから」
卒業が近づけば近づくほど、橘先輩もいろいろと忙しくなる。
わたしなんかに構っていられなくなるだろうし、橘先輩の進路がどうなるかなんてわからないけど、高校を卒業してしまえば会いにくくなるのも確実。
いつまでも結論を長引かせるということは、基本的にはできないと思う。
「受験生なのに告白をしてきたんだから、それだけ強い気持ちがあるってことなんじゃない? 遠距離も覚悟してるのかもしれないよね」
「わたしなんかにそこまでの感情あるかな……」
「だから、もっと前向きにならないとダメだよ。告白をされたのは事実なんだから。それに、前にイケメンと付き合えるなら死んでもいいとか言ってたよね」
「言ってたけど、本当にそうなるとは思ってなかったし」
妄想だけがすべての頃はそんなことも言っていた。いま考えると、あのときが一番楽しかったような感じもする。
こう言ったらなんだけれど、もっとランクの低い男子だったらここまで思い悩む必要もなかったのかもしれない。
初めて付き合うのが橘先輩だなんてプレッシャーが強すぎるよね。むしろ、ドッキリとかのほうが気が楽かもしれない。
「ところで、梨子ちゃんのほうはどうなの? いまは誰かと付き合うことを考えてるの?」
梨子ちゃんもわたしと同様で、これまで誰とも付き合ったことがない。
でもそれは、わたしの事情とはずいぶん違う。
梨子ちゃんはこれまで、何回も男子に告白されている。
その中には学年で一番人気の男子もいた。
けれど梨子ちゃんはそれを全部断っている。相手が好き嫌いとかじゃなくて、前のお父さんとのことが影響しているから。
梨子ちゃんの両親は梨子ちゃんが幼いころに離婚している。お父さんの不倫が原因だった。
お母さんと別れる前には暴力なんかもあったみたいで、だから梨子ちゃんのなかには男性に対する不信感みたいなものがある。
そういう意味ではわたしと似たようなところがあるのかもしれない。
「……梨子ちゃん?」
わたしから視線を外したまま、梨子ちゃんはなんの反応も示さなかった。
まだ前のお父さんの記憶が残ってるのかな。だとしたら悪いことを聞いたかも。
「ごめんね。嫌な記憶を思い出させちゃったよね」
「大丈夫。気にしてないよ」
梨子ちゃんとはクラスが離れているから正確なところはわからないけど、この容姿なら高校でもきっと異性に人気あるよね。
同じクラスの男子みんなに告白をされてるから、面倒とか思ってるくらいかも。
「ねえ、梨子ちゃん、もしも、わたしが橘先輩と付き合うことになったら、梨子ちゃんも誰かと付き合ってよ」
「え、どういうこと?」
「ダブルデートって夢だったんだ。梨子ちゃんとわたしと先輩と誰かの四人でどこか遊びに行こうよ」
梨子ちゃんがわたしの背中を押してくれるのなら、わたしも同じことをしてあげないといけない。
橘先輩と付き合うと決めたわけじゃないけど、梨子ちゃんが前向きになってくれるなら、それもアリかなと少しは思ってる。
「わたしは……」
「勇気が必要だって、梨子ちゃん言ったよね。それ、わたしからも言わせて。前のお父さんのことを忘れることも勇気だよ。いつまでも昔のことにこだわっていたら、梨子ちゃんが幸せになれるチャンスを逃すんだよ」
「……そうかな」
「辛いことは一緒に乗り越えようよ。無理矢理に誰かを好きになる必要はないけど、心を開いておく必要はあると思う」
「遥ちゃんもだいぶ前向きになったね」
梨子ちゃんはわたしに笑顔を向けた。その表情はどこか、ぎこちなかった。