「好きだ、付き合って欲しい」

そんな言葉を耳にして、わたしはしばらく言葉を失っていた。

予想はしていた。授業が終わってクラスを出ようとしたら男の先輩に呼び止められ、こうして屋上へと連れて来られた。

校舎の屋上といったら誰かに告白をするには定番というかベタ過ぎる場所で、だからわたしは先輩の後ろを歩きながら、もしかしたら好きだなんて言われるかもしれないと妄想をしていた。

でも、妄想は妄想でしかなくて、実際にそんな風になるなんて、本気では思ってはいなかった。
だってわたしはそんなにかわいくはない。

鏡を見るたびに自分でもがっかりしちゃうくらい特徴のない顔をしている。
これまで誰かに告白されたことなんて一度もないし、自分から告白したことだってない。表舞台を歩けるような立場じゃない、そう割り切っていた。なのに。

しかも、相手は橘先輩。
イケメンとして有名な三年生で、入学してまだ二月ちょっとしか経っていないわたしでもその噂は聞いたことがあった。

実際に橘先輩はかっこよかった。
男性にしては線が細くて、肌も透き通るような色をしている。

目鼻立ちが整っているのは当然で、でもそれだけじゃない繊細さみたいなものを雰囲気から感じ取ることができた。
わたしが好きな恋愛アドベンチャーに出てくるようなキャラクターみたいだった。

「答えを聞かせてもらえるかな?」

やさしい声でそう催促されても、わたしの口からは簡単に言葉は出てこなかった。
まだ戸惑いが消えていなかったから、わなわなと唇を震わせるだけだった。
橘先輩の顔がまともに見られず、視線は地面の方をさまよっていた。

どうして? 
どうして橘先輩はわたしのことなんか好きになったの? 
全然理由がわからない。どう考えたっておかしいよ。答えって言われたって、なにを言えばいいの?