委員長会議用の資料をまとめる必要があった私は、早くに学校を訪れていた。流石に、教室に先客はいなかった。ただ、運動部の学生はグラウンドで練習を行っているため、夏の朝特有の、少しだけ涼しい風と共に、彼らの声が空けた窓から自然と流れ込んできた。それをBGMに、私は黙々とペンを走らせ、プリントをクリップで留めていた。すると、突如教室の扉が開く音がした。思わず、反射的に振り返ってしまう。

「「あ。」」

茶髪と目が合った。思わず、声が漏れる。相手も急に振り返った私に驚いたのか、同じ様な反応だった。無言で見つめ合う事、数秒。気まずさに耐えられなくなった私は、

「お、おはよう……」

と挨拶をした。が、尻すぼみ気味になってしまう。彼は挨拶を返すことはせず、少しだけ頭を下げた。そのまま何事もなかったかの様に席に着き、机に突っ伏してしまった。どこか拍子抜けしてしまった私は、すぐに自分の作業に戻った。すると、カーテンがぶわっと、浮き上がった。机の上のプリントも吹き飛ぶ。

「あっ‼」

目の前の惨状に、私は大声を出してしまった。悪態をつきそうになりながらも、床に落ちた資料を急いで拾い上げる。すると、目の端にスリッパが映った。その人は、しゃがむと何も言わずにそれらを集め、私に突き出してきた。お礼の言葉がすぐに出てこなかった。まさか、彼が、染矢実が、手伝ってくれるとは思っていなかったからだ。彼についての様々な噂話が頭に駆け巡り、ついポカンとする。彼は早く受け取れと言わんばかりに、紙を揺さぶった。その様子に我に返った私は、戸惑いつつも言葉を絞り出した。

「……あ、ありがとう」

と。彼はまたもや返事をせずに、少しだけ頭を下げすぐに席に戻っていった。私は確認の為、改めて彼が拾い集めた分の資料を見た。驚いたことに、きちんと順番どおりに並べてあった。思わず、彼の方を振り返る。既にこちらの事には興味がなさそうに、欠伸をしていた。私は、意外と几帳面な性格なのかもしれない、と感じていた。