「すずちゃん」
人気のない公園のベンチに座る彼女を呼ぶ。ここは、昔からすずちゃんがなにかあったときにいつも逃げ込む公園。
「……光輝くん、」
彼女は振り返らなかった。でも、その声で泣いていることは分かった。まぁ、病室を飛び出した時点でだいたい想像はついていたけれど。
彼女に近付いて、隣に腰掛けて。
「ねぇ、すずちゃん、」
嫌われたくなくて、そばにいたくて。ずっとずっと隠してきた。本当は、言い出す勇気が持てなかっただけなのかもしれない。
彼女がそこでやっと僕の方を見てくれた。その目はやはり潤んでいる。

「僕は、すずちゃんのことが好きだよ」

唐突すぎる告白。全く予想していなかったらしい彼女は、ただでさえ大きい目をさらに見開いて固まっている。
「え、光輝くん、え?」
「……全然気付かなかったって顔してる」
「……ごめんなさい」
「うそうそ、冗談だよ」
「えっと、それは、……」
「好きな気持ちは冗談じゃないよ、もちろん」
「……だよね、」
あぁ、やっぱり困らせちゃうか。
「まぁ、別に僕が言いたかっただけだから全然気にしないでくれていいんだけどさ、」
こんなことになるまで、彼女に気持ちを打ち明けられなかった僕は弱い。だからやっぱり、彼女に相応しいのは僕じゃないと思うんだよね。
「光輝くん、」
「……すずちゃん、病室戻りな」
彼女の言葉の続きを聞くのは怖い。それでも、彼女は続きを紡ごうとするのをやめない。
「光輝くん、私、」
言葉に詰まった彼女の目から一粒の涙がこぼれた。
「私は、翼くんのことが好き」
真っ直ぐに、そう言われた。わかってはいたけど、やっぱり辛い。でも、君の前でまでそんなダサい僕は見せたくないから。
「わかってるよ、だからすずちゃん、病室戻りな。すずちゃんと一緒にいるべきなのは、やっぱり僕じゃなくて翼だよ。翼のあれが本心じゃないのは、わかってるでしょ。あいつならちゃんと、すずちゃんの気持ち受け止めてくれるよ。僕が保証する」
最後に強がりを見せた僕に、彼女はゆっくりと首を縦に振った。
「光輝くん、ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、頑張ってね、すずちゃん」
もう一度強く頷いてから、彼女は駆け出した。
「すずちゃん!」
もう一度だけ、彼女を呼び止める。
「もし翼がダメだったらさ、いつでも僕のところに戻っておいで!」
彼女は優しく微笑んで、ありがとう、とだけ言った。

「がんばれ、すずちゃん」
次第に小さくなる彼女の後ろ姿に向かって、思わずそう呟いていた。