「とりあえず、翼の意識が戻ってよかった」
帰り道、二人で並んで歩いていると、光輝くんがそうこぼした。
「……そうだね」
今日起こった全てのことに対してなにが正解なのか、私にはわからなかった。
「……すずちゃん、大丈夫?」
光輝くんが、心配そうに私の顔を覗き込む。彼の顔を見て、気付けば、涙が溢れていた。
それを見て、光輝くんは一瞬焦ったような顔をした。でもすぐにいつもの優しい表情に戻って、私をふわりと抱き寄せる。
彼の腕の中は温かくて、肩の力が抜けたような気がした。そのせいか、涙が止まらなくなってしまう。
「大丈夫だよ、すずちゃん」
彼は、自身の浴衣が濡れてしまうのを気にもせず、私に何度も声をかけ、落ち着くまで抱きしめ続けてくれた。
「…光輝くん、ごめんね。もう大丈夫」
私がそう言うと、彼はゆっくりと離れた。温もりが消えていくことになぜか寂しさを覚える。
「そっか、よかった」
「ありがとう。でも浴衣が……」
「あぁ、いいの、気にしないで。全然大丈夫だから」
その後、彼は私を私の家の前まで送り届けてくれた。彼にもう一度丁寧にお礼を言って、家の中に入ろうとすると、彼に呼び止められる。
「すずちゃん!」
振り返ると、彼は真っ直ぐに私を見ていて、その目からは何らかの強い意志のようなものが感じ取れる。
「翼が歩けなくなろうとどうなろうと、俺たちの関係は何も変わらないから。だから、大丈夫だよ。今は、あいつのためにも、今まで通り一緒にいるのが一番だと、僕は思うよ」
「……うん」
「また、何かあったらいつでも連絡してね。じゃあ、おやすみ、すずちゃん」
「うん、ありがとう、光輝くん。おやすみなさい」
私の返事ににっこりと微笑むと、そのままくるりと背を向けて帰っていった。どんどん小さくなっていく彼の後ろ姿を見つめる。ふと空を見上げると、光の花々の散った真っ暗な空が果てしなく広がっていた。